掌を握り締めた。
忘れるなんてしない。思いだすこともない。
ただ、あたしがひとりでいることの証明のように
空は広く、赤く、あたしを飲みこんでいく。
あたしはひとり、掌を握り締める。
汗で指先がすべるくらいの時間、長く、永く。


夕暮れの赤い空はあの人を思い出すから、
嫌い。
だいすきだったもの全部、こわくなったのは
あのひとのせいだ。
赤い空と血で染まった掌を重ね合わせて、
消え行く掌は赤。太陽に透かさずとも赤。

―ねぇ、いつからだっただろうね。



言い訳はしない、あたしはひとりだ。
理由なんてない。理由があったらそれはあたしにとって、
言い訳でしかないから。
ただあたしはどうしようもなく、ただひたすらこの
真っ赤な空にひとりでさよならをするしかない。
今日も暗闇はすぐそこだよ。



あたしはひとり、握った掌をゆっくりと緩める。
血ですっかり指先は滑ってしまって、
あたしのナイフは役にも立たないから。